
京都↔大阪間で争う2つの「有料着席サービス」、JR西日本新快速『Aシート』と京阪電鉄特急の『プレミアムカー』。


前回の記事では『Aシート』を実際に利用し、そのメリットとデメリットを指摘した。
今回はその続き。折り返し京都七条から京阪電鉄の『プレミアムカー』に乗って大阪を目指し、『Aシート』と比較するぞ……!
②京阪特急『プレミアムカー』
京阪電鉄「特急」について
京阪電鉄は国鉄東海道本線に次いで京都↔大阪間に開業した鉄道会社であり、現在では国鉄の流れを汲むJR西日本と阪急電鉄京都線(元は京阪の路線だったのだが……)と競合している。

京阪鴨東線・本線を走行する列車は京都大学や百万遍の玄関口「出町柳」を起点とし、京都市内では鴨川右岸=東山地区の地下を往く。それから大阪府の淀川右岸地域を抜け、オフィス街兼下町の「京橋」「天満橋」を経由し、「淀屋橋」に至る。
競合のJRと阪急が淀川左岸地域(茨木市・高槻市など)を通るのに対し、京阪が通るのは右岸(守口市・枚方市など)。京都市内においても鴨川右岸を走るため、運行ルートは独特と言ってもいいだろう。
スピードは劣るし、正直他線との乗り換えには不便だが、京阪が通勤・観光でニッチな需要を獲得していることは間違いない。
そんな京阪電鉄の中でも最も速い列車が『特急』だ。平日休日ともに日中であれば10分に1本、毎時6本運転されている。
特急と言っても追加料金は不要。にもかかわらず、京阪特急はサービス面で常に時代の最先端を征く。
テレビが本格的に普及する前にいち早くテレビ付き車両=「テレビカー」を導入し、その後2階建て車両の「ダブルデッカー」も特急用車両に組み込まれ……

これらすべて『無料』なんだから驚きだよね。
先述の通り、京阪電車が走るルートはちょっぴりニッチで、なおかつスピードも速くはない。
だからこそ京阪はそのサービス面に磨きをかけた。
たしかに京阪と聞くと、華やかでワクワクするようなイメージを抱いてしまう……!
『プレミアムカー』の概要と利用方法
サービス重視の京阪電車、その「華やかさ」の象徴が有料着席サービス車両『プレミアカー』である。

特急用車両8000系の8両編成中1両が改造され、2017年8月から運行が開始された。
プレミアムカーを連結した特急は1時間に3~4本程度。

京阪特急は毎時6本走っているから、実に半分以上にあたる。しかもこの8000系には二階建て車両(先出)も連結されているのでいろんな意味でプレミアムだなぁ……と思うよ。
利用には『プレミアムカー券』(¥400 or ¥500)が必要だ。いわゆる座席指定券であり、購入時点で「確実に座れる」ことになる。
『プレミアムカー券』の購入は駅のほかネットでも可能。

「今日はなんだか疲れたなぁ……」と思ったら、職場や観光先で『プレミアムカー券』が買えちゃうんだから便利だよね(ネットでの購入には無料の会員制サービス「プレミアムカークラブ」への登録が必須)。
ここ最近はずいぶんプレミアムカーも人気。すぐ満席になってしまうことも多々あるらしい。また、「座席の指定変更は2回まで」と他社のネット予約サービスが無制限であることを加味すると少し不便。
予約できるのは良いばっかりじゃないかも?
実際に『プレミアムカー』を利用してみた
ここはJR京都駅。新快速『Aシート』から下車し、そのまま京阪電鉄七条駅に向かう。
今回はJR京都駅に最も近い京阪七条駅→JR大阪環状線との乗換駅である京橋駅の区間を利用する(Aシートで利用した大阪→京都に最も近い区間?だから)。
にしても京都駅から七条駅、歩くとなるとそこそこ遠い。

京都駅前の中心街を抜け、どんどん下町に突入していった。



たまに見える神社仏閣が京都らしさを見せる一方で、そのほかの街並みは大半がマンションで古くても明治大正の建築物からなる。

それはそれで美しいのだけれど、観光客の方が思い浮かべるような「京都らしい風景」なんてほんの一部に過ぎないんだな、と思った。
やっとの思いで京阪七条駅に到着。この駅は「三十三間堂」や「京都国立博物館」の最寄であり、結構利用客は多い。


ところで、「遠いんじゃないか」と気づいてからはだいぶ急いで歩いたために、乗車予定の1本前の『プレミアムカー特急』に間に合う格好となってしまっていた。
変更しようか(『プレミアムカークラブ』なら2回まで予約変更が可能)とも考えたが、駅の電光掲示板を見ると、

次の特急の『プレミアムカー』には×表示。座席が埋まっているらしい。それなら、予約した通りの列車に乗ろう……
快適&親切すぎるサービス
1本前の特急を見送り、自分が予約した列車に乗り、自分が予約した席に座る。



車内を見渡してみると、床はカーペット、照明は全て間接照明で、「豪華だ……!」って感じ。

『Aシート』の2×2列に比べ、『プレミアムカー』の2×1列のリクライニングシートは幅が段違いに広く、そして包み込むような形状をしている。


リクライニングの倒れる幅も相当大きい。
この手の有料着席サービスの必須要素とも言える「テーブル」「コンセント」「Wi-Fi」ももちろん備えていた。


座席の作りやコンセント等の設備の面では申し分ないのだけれど、

一方で脚が伸ばせないのはちょっぴり嫌かな(※個人の感想です)。
でも京阪特急は揺れが少ない。スピードは決して速くないが、その分乗り心地は良い。
車内にはアテンダントさんが一人で乗務をされている。指定の座席に座ってさえいれば特に検札などもないので、「用があればコミュニケーションをとる」ので済むってこと。
つまりアテンダントさんの仕事内容には幾分か余裕があるわけだ。京阪ではその余力を「サービス」に回していた。
例えばコレ。

プレミアムカー限定グッズの販売。いかにも高級そうなグッズが並ぶ。観光でプレミアムカーを使った方が「記念に」と買っていくのだろう。僕も欲しくなったが、金欠だからやめておいた……
その他無料のサービスもあって、個人的に感動したのが、

コレ。スマホの充電器を貸してくれるんだよ。ヤバくない?
コンセントの設備があっても利用客が充電器を持っていなければ宝の持ち腐れになってしまう。
だからと言って充電器は……ヤバくない?ほかにもブランケットの貸し出しもあ(下車駅が近づくとアテンダントさんが回収に来てくださるのでそれもありがたい)。
車内環境・設備の豪華さ、アテンダントさんの施す細やかなサービス、こうした非日常をたったワンコインで享受できる『プレミアムカー』。
京橋駅で降りたころにはあまりの感動に語彙力を失い、「プレミアムだ……!」という感想しか残らなかった。許してほしい。
メリット
駅で購入orネット予約で「確実に座れる」
本数が多い
座席が2×1列配置で幅が広く快適
コンセントやテーブルの設備
サービスの恐るべき充実度
Wi-Fiも使える
照明がオシャレ
デメリット
決して速くはない
座席では脚を伸ばすのは難しい
予約変更に制限あり
満席で乗れないことも多々ある
AシートVSプレミアムカー、勝者は?
JR西日本の新快速『Aシート』が野洲駅(滋賀)~姫路駅(兵庫)まで利用可能なことを考えると、単純に『プレミアムカー』と『Aシート』を比較して良いのか、という問題はある。
だが、京都大阪間で見れば現状『プレミアムカー』の圧勝であるように感じた。
第一に、『Aシート』の「車内で整理券を購入する仕組み」がどうも不便だ。

確かに事前準備が必要ないのは手軽でいいかもしれない。しかし、列車が来るまで本当に座れるかわからないのは困るし、何より車内で乗務員さんが忙しそうに整理券の発売をしているのはなんとも落ち着けない。

その点京阪の『プレミアムカー』は導入当初から予約を必須としていた。アテンダントさんの検札にかける仕事量は少なくて済むため、その分ブランケットや充電器の貸し出し・限定グッズの販売に時間を割くことができる。
第二に、車内環境づくりの面だ。
『Aシート』では座席が2×2列、『プレミアムカー』では2×1列。


脚を伸ばせる分『Aシート』にも優れた点はあるものの、『プレミアムカー』のほうが座席は大きく広い。
ほかにも、床のカーペット・間接照明・液晶モニタ……


京阪は「サービス」に力を入れてきた会社だから、その経験の差が如実に表れているのかもしれない。
「着席サービス戦争」の今後は?
ここで忘れないでほしいのが「『Aシート』はまだまだ試験段階にある」ということだ。
今はテストをしている最中。至らないことが多々あって当たり前。
需要の拡大とともに『Aシート車両』が増えるにしたがって、ネット予約がスタートしたり、新たなサービスが出現したり……とまだまだ先行きは良い意味で不透明と言える。
そうなれば「座れるから」と京阪電車を選んでいた客層が、より高速で走るJRの新快速に流れてゆくかもしれない?
一方で京阪電鉄も勝負に出る。通勤色が強い一般形車両「3000系」にも新たに『プレミアムカー』の導入が決まっているのだ……!

まだまだ「着席サービス戦争」は始まったばかり。
そしてうかうかしていられないのが阪急だろう。

競合二社が「着席サービス」の導入に踏み切った状況で、阪急もなにか手を打つのか、打たないのか。
今後も関西の鉄道事情からは目が離せない。
(コフンねこ)
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