
※この記事は、瀬戸内国際芸術祭が最高だったので旅の記録書いた(直島編)の続編です。この記事から読んでもお楽しみいただけるとは思いますが、直島編もぜひ一読いただけたら。
続きなので、直島から小豆島へ移動してきたところから始まっています。日が傾いてます。
小豆島へ……

なんかおる。
小豆島の坂手港に着いたのは17時過ぎ。夕暮れの港には人がまばらだ。直島の赤かぼちゃのように、小豆島でも再びアート作品による熱烈歓迎を受けた。
なぜ怒っているのか、吠えているのか全く分からない。だが、自分の産まれてきた卵の殻を必死に守っているようにも、自らの生まれ星を必死に守っているようにも見える。きっと心優しい奴なのだろうなと、勝手に納得する。
ゆっくりと回転し、360度全方位まんべんなく威嚇するその姿は健気ですらある。
不思議とこちらへの敵意は感じない。

調べると、灯台の跡地に新たに設置されたモニュメントなのだという。そうか、こいつは一人でこの坂手港を、小豆島の入り口を守ろうとしているに違いない。

またなんかおるな。
こちらはきっと、地域の方の作品なのだと思う。
海に浮かんでいるブイを、アートとしてリサイクルし、こうやって飾っている光景を直島でもよく見かけた。
それはカエル(憶測だが無事に帰ってこれるように、という祈りかもしれない)であったり、この光景のように、祭りの屋台で見かけるお面のような愛らしいキャラクターを象っていたりする。
作っている光景を想像すると、なんだかとても温かい気分になった。
さて、坂手港でやらなければならないことがある。
そう、レンタカーの受け取り。
小豆島は、そこそこデカい。バスはもちろん出ているが本数が少ないこともあるので、バスでの移動を考えている場合は事前によく確認しておくことをおすすめする。
また、小豆島には直島のようにサイクリングにうってつけな道がたくさんあるのだが、今回は限られた時間で色々回りたかったので、レンタカーを選択した。
実を言うと今回は4人旅。4人で24時間借りて、一人当たり大体2,500円だったので「やっすーい!」と嬉しくなった。私だけ免許を持っていなくて、ずっと音楽係やってた。まあ、それはいいとして。
声に出して読みたいペンション名

ペンションが良い名前だと嬉しい!というわけで、ここが本日の宿だ。
バァンキャトル・ウ。
バァンキャトル・ウ!
何度も口にしたくなるが、この名前にはれっきとした由来がある。
フランス語で「二十四の瞳」。小豆島は、この「二十四の瞳」が映画化された際にその舞台となった。
小豆島には、見どころがいくつもある。
「二十四の瞳」のロケ用オープンセットを利用した映画村などの観光地、潮の満ち引きの影響で一日2時間ほどしか現れない砂浜の道、エンジェルロードなどの豊かな自然。
食の宝庫でもあり、オリーブはもちろん(本当に面白いほど島中にオリーブの木が生えている!)、西日本随一の醤油の名産地でもある。手延べそうめんも名産品だ。
正直一日じゃ足りない。バァンキャトル・ウ(言いたいだけ)にチェックインしたあと、行きたい場所を泣く泣く削りながら次の日の観光ルートを話し合った。

メインディッシュ、オリーブオイル!
夕食へ……やはり、小豆島に来たからには……オリーブオイルを食べなきゃいけない気がする。

え!?
備え付け!?
ウェイターさんが、慣れた口調でそれぞれのオリーブオイルの特徴を解説していく。締めの言葉は、
「お好みで、追いオリーブオイルしてくださいね」
ここにきて知らない概念が出てきちゃったな。
少し豪華めに、「やっぱりオリーブオイルのお店が良いね」、とやってきたのは「らしく園」2階の農園レストラン『忠左衛門』さん。テーブルについた瞬間から良い意味で期待を超えてきた。
それもそのはず、この「忠左衛門」は、小豆島で三代に渡りオリーブ農園を経営している井上誠耕園さんが運営している。
〝「農家らしく、小豆島らしく」〟
こだわり抜いた食材とオリーブオイルを直接お届けするレストラン。
オリーブのプロが厳選したオリーブオイルで、小豆島の新鮮な食材を料理するんだから、美味くないわけがない。
頼んだのは、
「どんどんお出しする『5種のオリーブオイルを味わうコース』」。
以下、メニュー。
オレンジオリーブオイルと讃岐サーモンのマリネ
檸檬オリーブオイルとアサリとアンディーブのリゾット
完熟搾りオリーブオイルと島の地魚のグリルと島野菜
アルベキーナ種の完熟搾りオリーブオイルとオリーブ緑果豚とピーマンのスパゲティ
ピクアル種の緑果搾りオリーブオイルをかけた和牛とセロリのトマト煮
フル ーツオリーブオイルをかけたMilkシャーベット
オリーブリーフティーまたはコーヒー
いや本当ぜんぶ使ってんな!
「しかもこれに追いオリーブオイルを……?ギットギトにならない?」
正直、味の違いが分かるのかも不安だった。

杞憂でした。
「うっそ、こんなに違うの!?」
ちゃんとオレンジの味がする。香りも風味も上品でさっぱりとしているから、サーモンとの相性は満点。舌を巻くとはこのことか。
オリーブオイルって、油なのにくどくないんですね。さらさらしていて、いくらでも掛けられちゃう。しかも健康に良い!
最初はおそるおそるだったのに、気がつくと常設「追いオリーブオイル」に何度も手が伸びていた。正直、オリーブオイル舐めてた。見事に味が違う。
バスケットいっぱいに差し出されたパンに、オリーブオイルを浸して全て食べ比べてみた。

何が違うのだろう。オレンジオリーブオイルはもちろん、柑橘系の風味がしっかりと付いているから違いが分かりやすいのだが、その他のものも、はっきりと味が違うのだ。何だろう? 甘さや苦さもそれぞれ異なっている。
例えば、「魚料理に合う」として置かれていたオイルは、少し渋くて香ばしさがあり、長く余韻が残るような、大人の味だった。
「万能、とりあえず迷ったらこれ」という完熟オリーブオイルは、みずみずしくてさっぱりめ、甘さを感じる。口の中でころころと転がすと風味が口いっぱいに広がるが、後味は控えめで、気がつけばすっと消えている 。
考えていて気がついた。ワインだとか、日本酒だ。そう、オリーブオイルはお酒に似ている。
実際、熟度や品種によって全く味が変わってくるのだという。非常に奥が深い。

一番気に入ったのは、このピーマンづくしのスパゲティ。
ピリッと辛くて、フォークを回す手が止まらない。ピーマンと豚肉だけというシンプルなスパゲティなのに、いやだからこそ、オリーブオイルの美味さが際立って飽きのこない味だった。
ぶっちゃけると、このスパゲティが美味しすぎて、今でも自宅でこの味をなんとか再現できないかと試行錯誤している。たまに夢に見る。
でも、やっぱり素材なんだろうな。

ミルクシャーベットにも、もちろんオリーブオイル。これがまた美味い。もう何でも合うだろオリーブオイル。だがこれも、きちんと考え抜かれたバランスがあるのだろうなと思う。
バニラアイスよりも少しさっぱりとして控えめな味付けのミルクシャーベットが嬉しかった。
大満足〜!寝ますおやすみなさい!
祈りを見る
おはようございます!
バァンキャトル・ウの朝食、ペンションの爽やかな朝という感じでサイコーだった(寝ぼけていたので写真撮り忘れました)。
喫茶店のモーニングも大好きだけど、それよりもワンランク上の、それでいて温かみのある朝食。そしてやっぱりパンにはオリーブオイルだった。
チェックアウトして、いよいよ街へ繰り出すことに。
まず向かったのは……

実を言うと、小豆島で一番来たかったのがここ。SNSを中心に話題沸騰中の、繊細かつ幽玄の世界。2019年4月に「迷路のまち」こと土庄本町に誕生したこの建物は、くねくねとした路地の先にひっそりと佇んでいた。

一見すると、綺麗な花、もしくは葉のついた木である。
しかし、近づいて見てみると……

そう、これ全部ちっちゃい折り鶴なのだ。人差し指の上にちょこんと乗ってしまうほどの大きさ。わずか1cm四方の紙を一羽一羽、全て手で折って作っているというから驚きだ。
2階建てのこの美術館には、6つの作品が静かに佇んでいる。最も大きな作品「群青 Gunjo」にはなんと、約3千羽もの折り鶴が使われているという。

「折り鶴は今、平和の象徴ではなく祈りの象徴といった方がしっくりくるのではないでしょうか」
―小野川直樹氏は、自身のホームページ上でそう語っている。
千羽鶴というと、平和の象徴であるとよく言われるが、行き場のない気持ちを託すように作られる折り鶴は、むしろそれそのものが「祈り」なのではないかと。
一羽ずつ丁寧に折られた鶴は、その祈りを体いっぱいに留めて、静止する。
ダイナミックに広がった枝に連なるように、空間上に「祈り」を結び止める。
これらの作品に心を揺さぶられるのは、きっとその仕事の精密さのためだけではないだろう。

迷路のまちあるき

せっかくなので、迷路のまちを散策する。
散歩が好きだ。人の3倍くらいきょろきょろしてしまうので、数名で散歩すると気がついた時には大抵置いていかれている。
「迷路のまち」は、中世に瀬戸内海で幅を利かせていた海賊の侵入から身を守ったり、南北朝時代の戦乱に備えたりするうちに入り組んでいったそうだ。
確かに歩いているうちに自分がどこにいるのかさっぱりわからなくなる。同じような道がたくさんあるというわけでもないのに、不思議だ。


サッカーボールのように組み合わされた皿。鮮やかな茶碗が積み上がってタワーに。
陶磁器の破損部分を、装飾してかつ修復する「金継ぎ」を利用した作品だ。
突然、銀行の店先にまで登場する瀬戸芸の作品群。改めて、瀬戸芸と地元との深い関わりを知った。

それは突然、目の前に現れた。
「う……ん?トリックアートかな」
最初はそう思ったのだが、認めざるを得なかった。
それは、まごうことなき‟穴”だった。

『迷路のまち〜変幻自在の路地空間〜』と名付けられたその建物は、外観のインパクトもさることながら、中身がもっと面白い。入場料300円で、この不思議な家屋を探検することができる。

まるで蟻の巣だ。なんというか、この空間は「室内」なのかどうか分からなくなってくる。
どこからが外で、どこからが中なのか、その感覚に揺さぶりが掛かる。外壁にぽっかりと空いた大きな穴は、中まで続いているのだ。
外と地続きになったその空間は、果たして「室内」と言えるのだろうか。そういう意味で、この空間は少し人体にも似ているような気がする。


浴槽が壁にめり込んでいる。柱が壁に食われている。上り坂があって、下り坂もある。軽く酔ってしまうほどだった。
出口を見つけて外へ戻ってくると、広がる景色の鮮やかさに驚いた。この家屋に入る前とは、全く異なる時空へ飛ばされてしまったのではないかと錯覚した。
自分のいま立っている場所すら現実であるかを疑ってしまう、そんな経験をしたい人は行って損はないだろう。
後編へ……
さて、突然ですが小豆島編は後半に続きます。長くなっちゃったからね、前後編に分かれるよ!下からポチッとどうぞ!
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