日本の最南端と言えば「沖ノ鳥島」ですよね。日本の最東端が「南鳥島」でややこしい。逆にしてくれ。
しかし範囲を限れば「最〇端」はたくさんある。
そのなかでも僕の住む大阪から一番近いのが「本州最南端」だ。

近畿地方ってなんかこう南に突き出してるじゃないですか、
そう、まさにそこです。蜂のお尻の先端みたいな感じのとこ。
和歌山県東牟婁郡串本町の「潮岬(しおのみさき)」、そこが本州最南端。
つまり潮岬に行けば本州で一番南にいる人間ってことになる。人ってのは意外と単純なもんで、「一番になれる」と聞いたら行きたくなってしまいます。
ってなわけで行ってみました。
本州最南端の駅、「串本駅」。
冬のある日の朝、僕は紀伊勝浦から特急くろしおで串本駅へ。

(ちなみに串本駅へは新大阪から特急くろしおで約3時間半!遠い!)
道中には車掌さんから「橋杭岩」の案内がなされます。

沖合の紀伊大島の方向へ続く奇岩。流紋岩と泥岩の2層の壁だったものが海の浸食作用によって流紋岩のみが残ったという自然の神秘。自然スゲぇ。
ほどなくしてパッと見普通の駅である「串本駅」に到着。

でもここ、「本州最南端の駅」なんです。

もう感動ものですよ、だって本州の鉄道で一番南にいるのは僕ってことになるじゃん。
駅から「真の最南端・潮岬」への交通手段。
ただ残念ながら「真の本州最南端」は駅の場所じゃない。
潮岬(しおのみさき)に所在する本州最南端の海岸”クレ崎”までは駅からおよそ5kmの道のりを往かねばなりません。
串本町では観光や住民の生活のために駅から潮岬や病院や各集落など町内の様々な場所を巡るコミュニティバスを走らせています。
https://www.town.kushimoto.wakayama.jp/kurashi/community-bus/
バス料金は均一200円。観光に便利なレンタサイクルは1日2000円、もし駅から潮岬までタクシーで行くなら片道4000円。
マジでバスめっちゃ安いんですよ。バス以外ありえない。バスありがとう。
ただ残念なことに本数はそれほど多くありません。1時間に1本。
駅周辺にこれといった観光スポットはないので、1本逃したらひたすら待つ以外の選択肢もない。
ええ、何が言いたいかお察しでしょう。
逃しましたよ、バスを。
僕が乗ったのは特急くろしお16号。その乗客が潮岬方面のコミュニティバスに乗車するためにはなんと-5分乗り換えを成功させる必要がある。
たった5分。されど5分。悔しい5分。
いや、串本町は血税でもって明らかに赤字の激安コミュニティバスを走らせてくれているわけで、住民でもない僕が文句を言うのはおかしい。おかしいけどさ……。
(後述しますが、串本のコミュニティバスはめちゃくちゃサービスが良い)
潮岬の先っぽへ、1時間半の徒歩の旅。
コミュニティバスを逃した。正確に言うと「逃すことをわかっていた上で代替案を何も考えていなかった」。
自転車は2000円で借りれる。バスを除いたら最安。
待てよ、もっと安い方法があるじゃないか……!?
人間はなぜ2足歩行になったのか?それは串本駅でコミュニティバスを逃した際に潮岬まで歩くためである。至極当然な論理。当然お金はかからない。
Googleマップを開いて経路と必要な時間をおおまかに計算すると「徒歩でしか行けないと思われる山道経由のルートで1時間半かかるよ」との結果が表示。長い、遠い。
しかし僕にだって意地はある。バスを逃したからと言ってあきらめるわけにはいかない。
歩きました。
瓦屋根に木製の外壁、そんな昔ながらの家の建つ住宅街を抜け、

時にはガチの山を潜り抜けた。

「戸だけ残っているヤバめの廃墟」を見つけ一人で大騒ぎ。

てかなんでそれだけ残したんだよ。なんの意図だよ、エモすぎるよ。
そして……
海。


このゴツゴツした感じの岩、どこまでも広がる青い海原。めっちゃ海。
そして「本州最南端の地」へ。
「もう海見たし満足した、帰ろう。」
1時間15分以上アップダウンの激しい道を歩いた僕は正直疲れていた。
「あーでも最南端だしなあ……」
串本駅に着いたとき「本州の鉄道で一番南にいるのは僕だ!」とか言ってたヤツどこ行ったんでしょうね?やる気ゼロ。俺のやる気スイッチはOFF。
しかしここであきらめる僕ではない(本日2度目)。這ってでも最南端へ行ってやる。
ついに……

この特徴的な建物は「潮岬観光タワー」。
ここが見えると、、、

もうゴールです!!!
やったぜ。
ご覧ください、これが本州最南端。
本州最南端の地にはさっき載せた石碑のほか、もう一つ石碑がある。

実はこっちのほうがさっきのよりも南に位置しています。
この奥に展望スポットがあり、人が立ち入りを許可されている陸地としてはそこが本州最南端。
見よ!これが本州最南端だ!!

ウォー!!!まぶしいぜ!!!
燦燦と輝く太陽、キラキラと輝く海、そして南に延びる岬。
本州で一番南にいるのは僕だ!!!!

とんでもない達成感と高揚感。ずっとここにいたい、ずっと一番でありたい。
このとてつもない感情はおそらく徒歩でなければ味わえなかったでしょう。なんだかんだ「歩きでよかった」と思ったものです。
帰路は串本町のコミュニティバスで。
行きは5分差で逃すことになってしまった串本町のコミュニティバス。
非常に疲れたので帰りはそのバスを使うことに。
運転していたのはおそらく町の職員の方なんですけど、サングラスに焼けた肌、まさしく海の男という感じのちょっと怖い風貌で。
僕が小銭を探すのに戸惑ってしまったのもあって「怒られるんじゃないか?」とビクビクしていたとき、ちょうど腰の曲がったおばあちゃんがとあるバス停から乗車してきました。
すると運転手さんはこう言うんですね、
「バス停なんか関係あれへんから好きなとこから乗ってや。手上げてくれたら止まんで。」
怖いなんて言ってごめんなさい。こんなホスピタリティ溢れるバスに文句言ってごめんなさい……。
この激安コミュニティバスが走っているのは地域のためであって僕たち観光客のためではないんだなと強く実感。
使ってもいいのだろうけれども、地域の方々の邪魔にならないようにきちんとした礼節と時間的余裕をもって乗車すべきだと思います。反省。
そもそも「潮岬」って?
遠い昔、『本州最南端の場所(「クレ崎」と言うらしい)』を含む潮岬周辺はただの島。つまり本州ではなかったので、当然本州最南端ですらなかった。
しかし、加工に堆積した砂が「砂州(さす)」と呼ばれる細長い陸地を形成し、串本駅のある街の中心部とその島を接続したのです。
いわゆる「陸繋島(りくけいとう)」ってやつ。
で、このウィキペディアから拝借した写真をご覧いただければわかると思うのですが、

めっちゃ不自然に接続されてますよね。持ったら折れそう。
考古学が示す津波災害と串本。
この砂州の部分からは弥生時代の集落遺跡である笠嶋遺跡が検出されており、どうやら津波の被害を受けていたらしいとのこと。
大量の土砂をかぶって廃絶された集落。
南海トラフの大地震に伴う津波が串本の街と潮岬をつなぐ砂州を破壊する可能性、十分にあるってことです。
笑い事じゃなく、本州最南端が変わるかもしれない。
本州最南端という特別な場所とそこに住む人々を守るにはどうしたらよいか?
遠くに住む我々も本気で考える必要があるのかもしれません。
”行けるうちに串本を観光してお金を使い、そのお金が各個人や自治体の災害対策に使われる……”
この記事がそんな方向に役立つといいなあ。
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