
夜行フェリーには、どこか憧れがある。
現代日本において「どこか遠くへ行こう」と思ったときに採る手段と言えば、基本的には新幹線や飛行機が思い浮かぶよね。場合によっては夜行バスや自家用車になるだろうか。
とにかく、「夜行フェリー」に乗る機会なんて普通は無いのだ。
大勢の人やモノを載せて、夜の海を行く。豪華客船ではないけれども、気分はまるでタイタニック。ツイッターでもちょっと前にバズってたし。

うん、やっぱりどうしても乗りたいな。
そう思っていた矢先、大阪から九州へ出掛けることになった。
これはチャンスですよね。逃す手は無い。
スマホに伸びる手がすぐに「阪九フェリー」の予約確定ボタンを押していた。
神戸港へ……
てなわけで、やってきましたよ「阪九フェリー」の神戸港。

神戸港と言ってもポートタワーとか光る観覧車があるオシャレな方じゃなくて、どちらかといえば少し外れにある港と言える。
最寄り駅(阪急or阪神「御影駅」またはJR「住吉駅」)から有料でバスが出てるのでそれを使うと便利です。駅から歩くには正直しんどい距離なのよ。
港に着いて直接フェリー船に乗り込むわけではなく、まずは受付で乗船手続きを済まさなきゃいけない。

ただ今回はWeb予約をしているので手続きも簡単。予約時のメールを見せればすぐにチケットがもらえる。

時刻は18:45だった。出航は20:00だが、ちょうどこの時間から乗船できるようになる。
いざ、阪九フェリー「やまと」へ
ご覧ください、これが我々を九州・新門司港まで連れて行ってくれる「やまと」です。

立派だ。立派だなぁ。好き。ほんとに。
受付もらったチケットをタラップの途中に立つ乗組員の方にお見せし、船の中へ入る。


初めて乗り込む夜行フェリー。ワクワクが止まらない。
乗り込めば、そこには船とは思えない広さの空間があった。


なんだろうこれ、ホテルじゃないんですか?
やっぱり個室がイイよね
阪九フェリーにはいろんな等級の部屋がある。最安は2等自由席なる「雑魚寝」の部屋で、一番上級の特等室は都会のホテルと見間違うようなツインルーム。差が大きい。
今回はその中間、いや、まあどちらかと言えば安い方の「2等指定Bシングル個室」を予約した。せっかくのフェリーだし、ちょっとくらい奮発して楽しみたいじゃん?

フロントでカギをもらって自分の部屋に入る。






うん。いい感じの個室だ。
広すぎると落ち着かないですよね、こういうの。純粋に「旅」を楽しむにはこうでないと(でも特等にはいつか乗ってみたい)。
で、気になるお値段。奮発したとは言ったけど、Web予約割引(20%OFF)で一室7,400円なんだよ。乗船代込みなのに。
これは安い……!
新神戸→小倉間の通常の新幹線料金が約14,000円。夜行バスでも関西からだと安くて6,000円くらいかかる(飛行機なら実はもう少し安いこともあるが、LCCゆえに個室ほど快適とは言い難い)。
安さに加えて、なによりも「個室であること」「ベッドがあること」は僕にとって捨てがたい。夜に横になって移動できるのは強い。疲れ知らずです。

しかし、この2等指定Bシングル個室はものすごい人気。めちゃくちゃ売り切れるのが早いのよね。
「ご予約はお早めに」と言っておく。
夕食を食べる
フェリーでの食事って特別な体験になると思うんです。夜の光で輝く海岸線を横目に食べるご飯は最高だよな、と。そこで大事になってくるのが、
「何を食べるか」
もちろん乗船前にコンビニでお弁当やパンを買ってくるのもアリだ。アリだけど、そんな日常生活の延長線上みたいなことはしたくない。
「え、じゃあどうするの?」
ごめんなさい、回りくどくなってしまいました。僕、もう決めてたんですよね。船内のレストランに行く、って。

「ステーキ丼¥1,250」を注文した。


分厚い牛肉が10切れ以上載った丼。フェリーといえば美味しくない料理を出すイメージがあったが、ここは違う。割と本格的な味が楽しめる。
そして……このレストランの最も良いところは、九州と関西、それぞれの名物を提供しているところ。
ステーキ丼だけでは飽き足らず、九州名物のチキン南蛮を食べてみた。

柔らかめの衣に甘辛いタレが染みた、阪九フェリー独自の味付けが口いっぱいに広がる。
そうか、僕は九州に向かってるのか……!
橋をくぐる
夜ご飯を食べ終えた午後8時30分過ぎ、それは突然現れた。

「明石海峡大橋」だ。本州と四国を結ぶ連絡橋の一つ。瀬戸内海を征くフェリーは、ライトアップされたこの橋の真下を通過する。
感動がすごいのよ。
船にでも乗らない限り、中々「橋の下通る」機会なんて無い。しかもその橋というのが明石海峡大橋なんだから。全国の「橋」の中でもかなり強い方であるわけだよ。
フェリーが進むにつれてどんどん明石海峡大橋が迫ってくる。




ちょ、デカくね?
これはあれだ。ゴジラに襲われた東京の人の気持ちだ。テンションが上がりすぎて、ずっと「オ゛ー!」とか叫んでいた。ゴジラだ。
ちなみに、瀬戸大橋は午前0:00すぎ、しまなみ海道はもっと遅い時間にその下を通過するらしい。流石にそこまでの体力は無かったが、フェリーからすべての本四連絡橋を眺めるのも楽しいかもしれない。
売店を楽しもう
フェリーの展望ロビーでスナック菓子をポリポリ食べたりとかお酒をチビチビ飲んだりしたくなった。
お酒が好きな大人ならかなりの高確率で「絶対に楽しい」と答えるアレだ。
そんな夢を叶えるべく(?)、船内には割と大きめの売店がある。マジでホテルじゃん。

品揃えも結構良いみたい。飲み物などは事前にコンビニで調達するのもいいかな?と思っていたけれど、船内で買ったほうが冷えていて良いもんね(少し割高感はあるが)。
なにより、船の中で買い物をしている違和感を味わいたかったし。

食事のあとのパーティーや晩酌も全て船内で完結できるわけだ。
ところで、売店にはこんなものも売ってるよ。

タオル。
なぜこんなところに?
wow wowお風呂、浸かりたくない?
なぜタオルが船内で販売されているのか。単なるお土産ではない。フェリーの中にお風呂があるからなんだよ。

阪九フェリー「やまと」号には、乗船開始〜0:00・朝7:00〜下船まで営業する『展望浴場』があるんです。
これが一番の楽しみだっ!
しがない大学生ゆえ、毎日浴槽にお湯を貯めるのはなんとなく勿体無く感じてしまう。だから大体いつもシャワーで満足する。そういう体になってしまった。
だからこういう、「湯船に浸かる」機会は重要なんだよね(正確に言うならば「船湯船に浸かる(?)」)。
残念ながらプライバシーの関係上写真は撮れなかったが、かなり最高だったとお伝えしておく。
グワーッと疲れが取れた。これで、あとは寝るだけってのが最高だよね。
ベッドに倒れ込んだ体は、そのまま翌朝まで起きなかった。
おはようの目覚め……
朝、自然に目が覚める。

昨夜眠る前まで船は兵庫県から岡山県の沿岸あたりをゆっくり進んでいたのに、どうやら今は随分九州に近くなっているらしい。
Googleマップで現在位置を確認し、声を出して驚いてしまった。
で、お待ちかね朝ごはんタイム。
完全に余談なんだけど、僕普段朝ごはん食べないんですよ。ギリギリまで寝ていたいので、朝は食べないほうが良い気がして。でも、フェリーで迎えた朝くらい、少し特別な気分に浸りたかったの。
昨夜も楽しませていただいたレストランに入り、席に着く。

注文したのは「鶏飯」と書いて「けいはん」と読む九州・鹿児島の郷土料理。

優しい味がした。
言うなればこれは、鶏のだし茶漬けに近い。柔らかく香る鶏の出汁が食欲をそそり、朝なのにサラサラと胃の中に入ってくる。気持ち良い。
朝風呂にも入った。昨晩はお風呂から何も見えなかったが、朝は太陽の光を浴びた海が眼前に広がっているのがわかる。

ああ、僕は今贅沢をしているんだな。
いざ、下船……
お風呂から上がって、気がつけばもうすぐ九州・新門司港に到着するらしい。慌てて身支度を済ませ、下船口に並んだ。思えば遠くへ来たもんだ。

船を降りればそこは九州の大地。安全運航でここまでやってきてくれた豪華なのに安いフェリーが、とても輝いて見えた。


下船後すぐ、駅に向かう無料バスが動き出す。

さようなら「やまと」、また乗るよ。
阪九フェリーに乗るメリット
ご覧頂いたように、夜行フェリーって本当に感動ポイントだらけなんです。一交通手段としては完成形かもしれない。そう思ったくらい。

阪九フェリーには値段以上の感動があります。今回僕が乗船代として払ったのはたったの7,400円なのに、個室から大浴場まであらゆる施設を楽しむことができたし。
新幹線より安いし下手すりゃLCCとか夜行高速バスともいい勝負をする値段で、「個室」「レストラン」「売店」「展望スペース」「大浴場」……!
要は夜行フェリーって「海を征くホテル」なんです。いやもうすごかった。感動がヤバイ。
これを経験してしまうと、正直ほかの夜行の交通手段は利用できなくなっちゃいます。気になる点はそこだけですかね。完全に感動の裏返しだけど。
関西にお住まいの方も、そうでない方もぜひ一度「夜行フェリー」を使われてみては?

値段以上の感動があなたを待っています。
(コフンねこ)
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