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地方ローカル線はなぜ衰退するのか―新幹線開業の落とし穴

執筆者の写真: コフンねこコフンねこ


 

1964年の東海道新幹線開業以来、一般的には新幹線の新規開業が地域経済に対して良い影響をもたらすものと考えられている。



近年で言えば北陸新幹線の成果が目覚ましい。



終点・金沢の潜在的な観光需要を最大限引き出し、観光客数・宿泊施設数等の増加に多大な影響を及ぼした。



 

では、新幹線の開業は「いいことずくめ」なのだろうか?



それは大きな誤解である。金沢のように新幹線が特定の地域に経済的利益をもたらす場合がある一方で、スポットが当たらない地域にはむしろダメージとなることもあるのだ。



実際、これから開業する予定の新幹線の路線計画等についてもその点を加味してたびたび問題が提起されている。



そこで今回は、JR飯山線・戸狩野沢温泉駅を例に取り、新幹線が地域に与えたデメリットとローカル線の未来について考えていきたい。




戸狩野沢温泉駅の詳細

JR飯山線・戸狩野沢温泉駅は、スキー観光で名高い「戸狩温泉」と「野沢温泉」の中間地点(かなり戸狩温泉寄り)に位置する駅である。



現在でも駅員さんが常駐し、多くの列車が戸狩野沢温泉駅で折返し運転を行うなど、飯山線の運行上無くてはならない存在だ。



ホーム上には中部地方の一部地域によく見られる『双体同祖神』が置かれるなど、「地域の伝統を残しつつ観光客に楽しんでもらう」といったコンセプトが感じられる。



もちろん、かつては温泉需要やスキー需要で大いに栄えていた。



しかし、今では衰退著しい。



2000年の一日平均利用客数は443人であったのに、現在(2018年)はたったの150人。野沢温泉や戸狩温泉のお客さんの数と比べても異様に少ない数字となっている。



利用客数の減少ぶりは筆者自身も体感した。まだスキーシーズン中の3月、戸狩野沢温泉駅を起点とする16:32発長野行の列車に乗り込んでみると、なんと乗客は僕と女子高生の二人だけ。観光客の姿などは見る影もない。



一体なぜ、戸狩野沢温泉駅がこういった事態に陥っているのだろうか。




駅からは遠い温泉地

先ほど述べたとおり、戸狩野沢温泉駅は間違いなく温泉の玄関口である。にもかかわらず、現在そのような利用の仕方をしている人は決して多くない。



そもそも駅から温泉までが遠いのだ。



野沢温泉には徒歩で1時間半。それよりも近い戸狩温泉でさえ、駅から中心部までは徒歩30分以上を要する(これでも「最寄り駅」であることは間違いない)。



ついでに言うと、冬から春先にかけて道路が雪に埋もれてしまう。筆者も取材の際に戸狩温泉「暁の湯」まで歩いたが、靴が雪でビショビショになってしまった。




スキー目当ての観光客が重い荷物を背負って駅から歩くのはどう考えても無茶である。



温泉地の名前が駅の名前になっている一方で、実際に駅から温泉への道のりは歩くと遠い……だからといって、利用客数減少の理由はコレではない。



温泉やスキーに向かう人の大多数が駅から路線バスを利用していた。バス利用が前提であれば、距離は大した問題にはならない。



長野駅から飯山線の列車に乗って戸狩野沢温泉駅に到着。そこからはバスに乗り換えて目的地を目指す。戸狩野沢温泉駅は「温泉地に近い駅」ではなく、「温泉地までのバスが出ている駅」だったのだ。


戸狩温泉・野沢温泉ともに、温泉とスキー場が一体となっている

こうした輸送のあり方は一見妥当に見える。全国でありえる話ではないだろうか。実際、ほんの少し前まではこのシステムですべてがうまく回っていた。



「駅から温泉へのアクセスがバス頼み」……新幹線開業を機に大きく変わってしまったのはこの部分と言えよう。




北陸新幹線の延伸で……

2015年の春、長野駅止まりだった北陸新幹線が金沢駅まで延伸開業した。



北陸新幹線延伸開業が金沢をはじめとする北陸三県(特に金沢)の観光を盛り上げたのは冒頭に述べた通りである。



良いことだらけに思える新幹線開業だったが、JR飯山線・戸狩野沢温泉駅には悪い影響を及ぼした。新幹線開業直前にあたる2014年の一日平均利用客数は254人。それに対して、新幹線開業後の2015年には185人と、200人台を割っている。



これほどまでに利用客数が減った一番の理由は、新幹線開業に伴う「バス路線の転換」にある。



先に触れた通り、戸狩野沢温泉駅から実際の温泉地まではそこそこの距離がある。したがって多くの人が戸狩野沢温泉駅からバスに乗っていた。



しかし、北陸新幹線の開業によって飯山線の「飯山駅」に新幹線が止まるようになると状況は一変。




「戸狩野沢温泉駅」発「野沢温泉」行の路線バスは廃止され、代わりに新幹線の飯山駅から野沢温泉行の直通バスが運行されるようになったのだ。



これまで長野駅まで新幹線でやって来て、そこから飯山線→バスと乗り継いでいたような首都圏のお客さんはみな直通バスを使う。戸狩温泉を目指す人も、飯山駅からバスに乗ったほうが便利である。



こうして、観光客が「戸狩温泉」「野沢温泉」の名がついた戸狩野沢温泉駅を利用することなどほとんどなくなってしまった。使わないほうが便利なのだから当然だ。



観光客にとっては新幹線と直通バスがある今のほうが便利かもしれない。しかし、戸狩野沢温泉駅周辺地域にはこれが大きな打撃であることは言うまでもない。



バスや列車を待つ多数の観光客が訪れていたはずのお店は今どうなっているだろうか?



このまま駅の利用客数減少に伴って飯山線の列車本数が削減されることになったら、車が使えない地元の人はどうやって移動するのか?




新幹線がローカル線と地域に落とす「影」

ローカル線はスピードが遅い。忙しない現代社会ではとてもじゃないが便利とは言い難い。けれども「小さなまち」の「小さな需要」も拾っていく。



言うまでもなく、新幹線は大きな街と大きな街を紡ぐ高速交通網の一部だ。都市間連絡としては便利である一方、街と街の間に存在する「小さなまち」の存在感が薄くなってしまう。



かつて、戸狩野沢温泉駅とその周辺はまさに「ローカル線が支える小さなまち」であった。しかしながら、新幹線の延伸によってある一定の需要を失ってしまった。同様の例は全国に漏れなく存在する。


 


これから新幹線をはじめとする高速交通網が整備されていくにつれ、全国の「小さなまち」が戸狩野沢温泉駅などと同じ事態に陥るだろう。



果たして、それは地域経済にとってプラスなのだろうか?



整備新幹線の誘致を目論む自治体は全国にかなり多い。筆者の地元だってそうだ。「新幹線ができればまちが元気になる」と盲目的に信じていて、「新幹線が地方に落とす影」については正しく理解できていないように見える。



今の時代において「便利さ」だけを追求することが果たして本当に正義なのか、しっかり考えていく必要がある。



(コフンねこ)


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