
何かと災害の多い昨今、「計画運休」が行われる機会もすごく増えていますよね。
今回は意外とみんなが知らない、災害に関する交通系豆知識みたいなものをお届けします、
題して『運休・運転見合わせ・遅延の違いってなに?』!!
(本記事の内容は旅客営業規則等の細かいルールとは若干異なる面があるかと思いますが、現実の例と照らし合わせたものとして理解していただきたいと思います)
①そもそもどうして輸送障害が発生するのか?
鉄道やバスなどの交通機関にはしばしば輸送障害が発生します。
一口に輸送障害と言ってもその原因は様々。ここでは特に鉄道に絞って見ていきましょう。
例えば“人身事故”を理由とする輸送障害は多いですよね。
飛び込み自殺か、線路への転倒転落か、列車への意図しない接触なのか……その内実はともかく、人命が損なわれたor人が重傷を負った場合に「人身事故」という言葉が使われます。
人身事故の大変なところは事故処理。
散らばるかもしくは吹っ飛ばされてしまう人体を、時には線路上、時には列車の真下から運びださなければならないのです。
遺体やその肉片が完全に回収されたことを確認し、血のふき取りなどの特殊清掃を済ませ、安全確認を行ってから再度出発となるのですが……この作業、めっちゃ時間がかかります。
一度事故が起きると2~3時間は止まったままになることも。
ほかにも地震や沿線火災等の災害、機器トラブル、急病人対応などなどいずれの場合も電車は安全確認や各種対応のため一旦停止します。
実はこの「一旦停止する」ことこそが輸送障害の直接的な原因。
停止して動けない(動いてはいけない)列車が一つでも存在すると、後ろの列車が詰まってしまうのです。衝突を避けるために全列車が停止せざるを得なくなります。
構造上同じ線路を走る列車は追い抜けません(追い抜く場合、抜かす列車と抜かされる列車は別の線路の上にいる必要がある)。
じゃあA方向が詰まっているならB方向だけでも動かせばよくない?とか、事故を起こした列車の先を行く列車は動かせるはずだ!と思うでしょう。
でも結局B方向の列車もどこかで折り返してA方向に転じることになるし、先を行く列車も同様で、進んだら戻ることになるんです。そして戻った先には止まってしまっている電車が。

ある一つの列車に起った何らかの障害が路線全体の輸送障害となってしまうのはそのためです。
近年の新たな路線の開業により「直通運転」を行う路線・列車が増えていますが、その場合1つの列車が止まると直通先の路線も含めてぜーんぶ止まってしまいます。
なぜなら1本につながった同じ線路を走っているから。輸送障害が波及しやすいわけですよ。
その他、仮に線路がつながっていなかったとしても、「遅れてやってきたA線の列車の乗客をB線の列車が待ってくれる……」といった場合も輸送障害は波及しやすいんです。
大阪・天王寺と和歌山を結ぶ阪和線で起こったトラブルが、遠く神奈川県・小田急電鉄の最終電車にまで波及したこともあります。
ともかくそういった輸送障害を細かく分けると「運休」「運転見合わせ」「遅延」になるわけです。
②「運休」と「運転見合わせ」の違い
結論から言うとそんなに大きく違うわけではありません。もっと言うとそんなに区別して使われているわけでもない。
でも、ちょっと違うので細かく見ていきましょう。
まずは「運休」について。これは文字どおり「この列車は運転取りやめです!」ということを指す。
そして「運転見合わせ」。これは「この列車はしばらく動きません!(動かす予定ではある)」ということを指す。
ね?違いがわからないでしょ?
実際に列車が動いていないのは同じだから、状況としてもほぼ同じと言って良い……
じゃあ何が違うのか?ここで例を挙げましょう。
東海道新幹線
8:00~10:00の間
東京~新大阪間の全線でストップした
「運転見合わせ」なら……
8:03に新大阪を出発する「のぞみ214号」が10:00に東京を出発する=列車はスタンバイOK状態で待機している
「運休」なら……
8:03に新大阪を出発する「のぞみ214号」以下10時までの列車は運転取りやめとなり、10:03発の「のぞみ8号」から運転を再開。
・もし「のぞみ214号」の指定席特急券を持っていた場合、「運転見合わせ」の場合ならそのまま10時に「のぞみ214号」が出発する際に使用できます。
・「運休」の場合はそうはいきません。「のぞみ214号」の指定席特急券は紙切れとなり、自由席特急券として利用するか、払い戻すことしかできなくなるんです。
「運休」の場合は無条件で手数料なしでの特急料金の払い戻しが可能。
一方「運転見合わせ」の場合は2時間以上の停止・遅れがあってはじめて特急料金が全額払い戻しとなります。
(だから例で挙げたようなケースの場合は結局払い戻しになる可能性が高いのでさっさと運休にしてしまう可能性が高い)
おおまかに「違い」というとこんな感じでしょうか。
たしかに切符の取り扱いの面で大きな違いはあるんだけど、客観的に見て「列車が動いていない」という状況自体は変わりません。
しかも今説明した「運休」と「見合わせ」の違いはあくまで『ある特定の列車』から見た場合の違いであって、単に「〇〇線が全く運行していない!」という状況そのものは”運転見合わせ”と呼ばれがち。
だから「○○線は人身事故の影響により運転を見合わせておりましたが、現在は再開し、遅れや運休が出ています」などといった非常にややこしい案内がなされてしまうわけですよ。
つまり何が言いたいかというと、「路線の運行状況を示す用語」としての『運転見合わせ』と「ある列車がスタンバイOK状態で足止めを食らっている」という意味での『運転見合わせ』が混在してるってことです。
とにかく、どんな形であれ「運休」と「運転見合わせ」がある一つの状況下で併存することだけはあり得ない。
運休=ある列車の運転中止・運転見合わせ=一時停止状態、みたいな認識でいいと思います。
それくらい「なんとなく」しか違わないので。
③「路線の運転見合わせ」と「遅延」「運休」
遅延についてはごく簡単に説明できます。所定の時間より「遅れている」だけです。
とは言っても、特に運転見合わせに伴う再開後の「遅延」についてはこれまでの話と関係があるので見ていきましょう。
先ほど挙げた例の通り「新幹線のぞみ214号東京行」が運転見合わせで新大阪を8:03に出発できなかった場合、「のぞみ214号」はスタンバイOK状態のまま運転再開を待つことになります。
で、そのまま運休にならずにのぞみ214号がのぞみ214号として新大阪駅10:00に出るとするとここに約2時間の「遅延」が発生するわけです。
先述の「○○線は人身事故の影響により運転を見合わせておりましたが、現在は再開し、遅れや運休が出ています」などといったややこしい案内の『遅れ』の正体はコレ。
「路線の運転見合わせ」→「再開」の場合、基本的に運転を見合わせていた時間の分だけ遅れることになります。
8:00の電車が10:00に出たとして、8:10発予定の電車は10:10に……
でも、いつかはその遅れを解消せねばなりません。
普段よりも高速で走るとか……色々方法はあるのですが、「ある特定の列車の運休」が行われる場合も。
例えば……
8:00発の列車を10:00に出発させた後、8:10発予定だった電車を運休にし、8:20発予定の列車を10:10に出せば2時間の遅延が1時間50分の遅延に=10分の回復!
運転間隔を変更することなく遅延を解消していくことができる……!
まとめ:「運休」「運転見合わせ」「遅延」の違いとは?
「輸送障害」とまとめられがちなこの三種の言葉。違いはそこまで大きくないのだけれども、非常にややこしい……
「運休」と「運転見合わせ」の場合、列車目線で言えば”ある特定の列車を運転する気があるか否か”という重要な違いはあります。
一方で『路線が運行されていない状態』、つまり路線目線でも「運転見合わせ」という言葉は使います。
大事なのは「運休」と「運転見合わせ」は併存しないということ。客観的に見てほぼ同じような状況でも、ビミョーな違いはあるんです。
また、「大きな遅延」は運転見合わせ(一時停止状態)から運転再開への流れの中で起こるものです。
「遅延」を解消する方法として「運休」という手段が講じられることも。ややこしい。
ただ、各用語のなんとなくの意味さえ押さえておけばそうそう困るものではありません。客観的に見れば大した違いはないので。
ちなみに大阪大学の授業停止基準は「阪急宝塚線が“運休”となっている場合」とされています。
例えば阪急が人身事故で止まっていた時も、非常に巧みな言葉の綾として「運転見合わせは運休じゃない」という論理が使われて授業が開講になったことがありました。許さねえぞ。
「運休」と「運転見合わせ」の細かな違いや、『実はそんなに違わない』ことを知っておくことで、様々な状況に対応できるのではないでしょうか!
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