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『のと』

執筆者の写真: ヒナヒナ


 

私が金沢駅に5分遅れで着いたときには、ほとんどみんな揃っていた。



ペコペコ縮こまりながら輪に入り、七尾行きの電車を待った。


 

先輩たちと自己紹介をしながら1時間と少し電車に揺られて七尾駅に着く。



金沢駅とは打って変わって雑踏が消えて広々とした道が広がっている。駅の向かいのショッピングモールは中のミスドだけを残して惜しまれながら閉業したようだ。


 

昼食は食彩市場で。ここでは浜焼きや練り物などを提供している。晴れきった高い秋空と穏やかな日本海なんて珍しい。



潮風を浴びながら揚げたての練り物を頂いた。練り物だけでは飽き足らず、能登野菜の中島菜のアイスクリームも頂いた。野菜の香りがソフトクリームの罪悪感を中和していておいしい。



映えた写真を狙ったらアイスが溶けて大惨事になった。


 

そのまま抹茶挽きの体験ができるお茶屋さんへ向かう。



川沿いを歩いて、そのお店を覗くと、抹茶仙人みたいな人が土間の先に座っていた。



初めこそ(あ…、厳しそうな人だ…)みたいな雰囲気が流れたが、お話を聞いてみると真逆の気さくな方だった。能登でのお茶の歴史を余すことなく話してくれた。



なんでも、能登の方は金沢と違いお茶に対して風通しの良い環境が育まれて来たそうだ。厳格な茶道を重んじる加賀に対して、自由な気風でお茶と向き合う能登。いい関係だと思う。



仙人には何度もお礼を言って店を出た。


 

食材を買いに地元のスーパーへ寄ったあと、のと鉄道西岸駅近くの宿へ向かった。



バーベキューの準備。特にすることはないが、適当に鶏肉を味噌につけたり、お米を炊いたりしていた。あ、ちょっと関係ないけど食べ物を漬けるという行為がとても好きだ。今のちょっとの手間で、ちょっと先の未来をかなり美味しくすることができる。



そんなことはともかく、バーベキューも楽しんだ。結構な人数いるのに立食特有の居心地の悪さもなく、お腹いっぱい食べた。もう当分お肉はいらんなと思うくらい食べた。



その晩は狂ったように人狼をして、トイレで先輩に脅かされて、死んだように寝た。


 

翌日、クマを塗装で隠してから向かったのは和倉温泉。



この旅のメインだ。


 

和倉温泉駅から少し歩くと、足湯の併設された公園がある。足湯を楽しみながら海を望める構造になっていて、これが最高だった。展望デッキまで濡れた裸足のまま海のそばまで移動でき、海の香りを胸いっぱいに吸える。



隣のグラウンドで本気のゲートボールが白熱していたことを含めて完璧な空気感だった。



温泉の熱で温かいベンチがあるというのでそこにも向かう。いや…ただのベンチ…と思いながら座ってみると心地よすぎて動けなくなってしまった。次の目的地で温泉卵が作れるという話を聞くまで、根が生えたように座り続けていた。



温泉卵を作り終えて、近くの食堂で美味しいアジフライを頂いたあとは、もう一度温泉街を歩く。


 

和倉の温泉街は道幅が広い。



地上に電線もなく、景色が開けている。道のそばには老舗旅館が軒を連ね、競争相手でありながら、同じ和倉の銘店として協調しているようにも見える。



突き当りには、かの有名な「加賀屋」が見えてきた。



風格がすごい。



表現力が足りず申し訳ない限りだが、圧倒的な風格を漂わせていて大学生が容易に近づけるような雰囲気ではない。手入れの行き届いた大きな玄関に、華麗に門前払いをされたような気持ちになった。


 

幸運なことに、和倉温泉協同組合の方からお話を伺える機会を頂いた。和倉温泉は白鷺伝説の残る歴史的な温泉であること、ドイツで開催された鉱泉のコンテストで入賞したことなど数多くのエピソードを語っていただいた。



中でも気になったのは、温泉街と地域の結びつきが非常に強いということ。



昔ながらのおもてなしよりもコストパフォーマンスを重視する顧客が増える中で、温泉街がチェーン店舗で埋め尽くされ利潤が外部の資本の手に渡っていくのはしばしば見られる事象だが、和倉にはたった一軒しかチェーン店が存在しない。



なぜなら温泉を管理している和倉温泉合同会社の株の多くを地元の住民が持っていて、新規の参入が難しい状況を作り出しているからだ。



――だが、それだけでは風通しの悪い環境が作り上げられるだけではないか?


 

その疑問は最後の質問への答えで解消した。



――いろいろなものが時代に合わせて変化している中で、これだけは変えたくないというものはありますか?


「ありません。若い人の意見って結局正しいので。」



この言葉を聞いたとき、和倉の居心地の良さの正体が垣間見えたような気がした。


 

その後担当の方がご親切にも和倉温泉駅まで送ってくださり、西岸の同じ宿に戻った。



宿では他の企業に話を伺ったグループと互いに発表を行い、隣の食事処で夕食。

豪勢なお食事で能登の魚介を満喫した。住んでいるところの魚が食べられなくなりそうなくらい美味しい。



このお魚がいつも食べられるなら、正直もう帰りたくないと思った。



それくらい、美味しいものと温かい人に囲まれた土地だった。


 

能登の時間は日本海からの潮風とともにある。この時の流れは他では味わえない。



金沢に行って終わりなんてもったいない。



理想の海辺の町、七尾に行ってみませんか?


(ヒナ)

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