
「乾杯!」

小豆島の浜辺にレモンが香る。この日、香川県小豆島でその名産品を使った特別なビールが開栓された。
その名も「野良レモンラガー(ビール)」。

大阪の超有名クラフトビールメーカー『箕面ビール』さんが小豆島のレモンを使って醸造したビールだ。

レモンと言ってもただのレモンではない。「野良レモン」である。
一体なぜ「野良レモン」なのか?
小豆島と大阪のビール醸造所にどんな関係が?
そして、タイトルにある「空き樹バンク」とは?
野良レモンからクラフトビールへ、それから小豆島での開栓パーティーに至るまで、その経緯を追っていこう。
「空き樹バンク」のスタート

全ては、山形県出身で現在小豆島在住の看護師の上野さんのある思いがきっかけだった。

上野さん「小豆島には、持ち主が高齢で手入れできないとかで放置された柑橘類の木がいっぱいあったんです。これをなんとかできないか?、と思ったのが始まりでした」
瀬戸内海に浮かぶ小豆島では、オリーブや柑橘類など瀬戸内海の特殊な気候を生かした作物を栽培している。

「せっかくの柑橘類で、しかも放置されてるから無農薬。なのに、誰も採る人がいない。もったいないな、と思ったんです」
上野さんは放置された柑橘の木=「空き樹」を探し始めた。そして、その木の持ち主を訪ね歩く。

「空き樹とはいえ元々は誰かのモノで、他人の土地に生えている木です。だから、まずは空き樹のある地域をうろついて、それから一軒一軒訪ねて……」
足繁く通い、懇切丁寧に説明する。それが上野さん流の『信頼の構築方法』。実はコレが一番大変だったとのこと。

「そうして、『私達が取るので、あの果実を採らせてください!』とお願いしました。OKをもらったら、あとは収穫。手袋を付けて、自分たちで採って……リュックがパンパンになりましたよ」
この活動をほとんど一人で進めてきた上野さん。彼女はこの活動に「空き樹バンク」と名付けた。

「小豆島には野良化した柑橘の木がたくさんあります。今までは見向きもされなかった柑橘の空き樹ですが、見方を変えれば無限の資産になるんです。これはもう『空き樹バンク』しかないな、と。我ながらいいネーミングだと思ってます(笑)」
空き樹レモンとビールの出会い

箕面ビールさん「去年の台風の影響で今年は瀬戸内のレモンが入手できず、困っていました」
大阪府箕面市『箕面ビール』さん。国内外から非常に高い評価を受けている老舗クラフトビールメーカーだ。
箕面ビールでは毎年レモンを使ったビールを製造している。しかし、今年は作れそうになかった。

「そんなとき『空き樹バンク』を紹介してくれたのが『みつか坊主』の斉藤さん※でした。これで私達も無農薬のレモンでビールを作れる。幸運でしたね」

こうしてはじまった空き樹バンク×箕面ビールのコラボレーション。上野さんも箕面ビールさんもそれぞれお互いに特別な思いを抱いている。

箕面ビールさん「実はクラフトビールをはじめた先代社長の出身地は小豆島なんです。その小豆島のレモンを使って、小豆島で開栓パーティーも開いてもらって。すごくありがたいですね」

上野さん「以前埼玉で働いていた頃、秋のビールフェスタで飲んだ箕面ビールの味がずっと忘れられませんでした。毎年秋になると飲んでましたよ。そんな箕面ビールと空き樹バンクがコラボするなんてビックリです」
地域を繋いだレモン
8月某日、「空き樹バンク」のレモンがビールになって小豆島に里帰りを果たした。

大阪に続いて小豆島でも実施された開栓パーティー。ビールを介して人々の笑顔が広がる。

小豆島で野良レモンを収穫した上野さんも、大阪でビールを作った箕面ビールさんも、誇らしげな表情を浮かべていた。
「これからもずっと野良レモンビールが作られ続けたらいいね」
と、みな口々につぶやく。
スッキリとした飲み口にレモンの酸味がほんのり香るビールは、私達に「ほんの少し見方を変えれば世界が変わるんだよ」と教えてくれているようだった。

誰も見向きもしなかった、無価値だったはずのレモンが、小豆島と大阪を繋いだのだ。
空き樹はレモンだけでなく、金柑・オレンジ・枇杷など様々。上野さんは「これからも『放置された柑橘の木=空き樹』をみなさんに活用していただけたら」と話す。
(コフンねこ)
{↓広告クリックで励みになります↓}
Comments